自然素材でつくる、ピッツァとドルチェとコーヒー

向日市の物集女街道から西へ少し入った住宅街。物集女城跡そばに静かに佇む喫茶店。古い農具小屋をリノベーションした店は、年季の入った瓦屋根や柱、漆喰の壁などをそのまま生かしながら、店主夫妻が愛する“イタリア”の空気を随所に落とし込んでいる。
メニューはピッツァ、ドルチェと、コーヒーなどのドリンク。どれも店主夫妻による手作りで、自然素材を使った、飾らず、しみじみとおいしいラインナップ。
手作りの薪窯で焼き上げる、素材を味わうピッツァ

ピッツァは、イタリア・ナポリをはじめ国内外を食べ歩き、試行錯誤を経て完成したもの。生地はイタリア産小麦に「京小麦」をブレンドし、イタリア直送のビール酵母を加えて長時間熟成。高温の薪窯で一気に焼き上げることで、コルニチョーネ(縁)が大きく膨らみ、表面にはヒョウ柄の焼き斑が現れた、ナポリピッツァらしい表情に。
外はパリッと香ばしく、中はもっちりと。長時間熟成による軽やかな食べ心地で、ほのかな甘みが噛みしめるほどに広がっていく。

定番はトマトベースの赤「Rosso(ロッソ)」とバジルベースの緑「Verde(ヴェルデ)」。季節の食材を使った限定ピッツァとあわせて4~6種類が並ぶ。家の庭や畑で収穫するバジル、栗、菊芋などが具材として登場することも。シンプルな組み合わせで、素材のおいしさを存分に引き出したピッツァは、1人でも食べやすいやや小ぶりのサイズがうれしい。
ドルチェとエスプレッソ、器にも手仕事のぬくもり

ドルチェは5~6種類。きび砂糖や甜菜糖、美山の平飼い卵、国産小麦、庭で採れる果物などの自然素材を使い、甘さ控えめに仕上げるのが特徴。「はちみつケーキ」は、風味豊かな生地にサワークリームと庭の栗または金柑を挟み、滋味深くさっぱりした後味。パンナコッタやジェラート、カンノーリ、ミモザケーキ、ティラミス、ココナッツケーキなど、夫妻がイタリアで出会った思い出の菓子も季節ごとに登場する。
コーヒーは、イタリア直輸入のエスプレッソマシンで抽出。エスプレッソやアメリカーノ、カップチーノ、カフェマッキアートなどがスタンバイ。京都・KAFE工船によるオリジナル焙煎の「Ottèブレンド」は、コク深く、素朴な甘さのケーキとの相性も抜群。

器にも店主夫妻の“好き”が存分に。コーヒーマグやカップは陶芸家のCANASAさんや中本純也さん、ピッツァプレートは木工作家の大矢拓郎さんによる、「Ottè」のオリジナルプロダクト。ドルチェに使うプレートのひとつ、「物集女土プレート」は小屋の改装中に出た土を使い、イタリアの古い皿をイメージして製作してもらったもの。
イタリアの気配に包まれる、くつろぎの店内

店内は農具小屋の趣を残し、アンティーク家具を配した2つの空間に分かれる。入口側は、古い土壁や板張りの床、柱や梁をそのまま残す。冬には薪ストーブの炎が揺れ、時間がゆったりと流れる。奥は、トスカーナのテラコッタをイメージした赤い壁が印象的。

象徴的なアーチ窓からは、葡萄棚や物集女城跡の原っぱが望め、季節の光がやわらかく店内を包む。「イタリアでよく目にするアーチを取り入れたくて」と店主。窓だけでなく、キッチンの壁にもアーチが施されている。日本の田園風景とイタリアの空気が溶け合い、ここにしかない空間が生まれている。
店主夫妻の好きなものに囲まれた、やさしい店

店主は店を始めるずっと前、本場ナポリの窯を研究し、自宅の庭に薪窯を手作りしていた。現在の窯は2代目。店を開くにあたり、これまで友人にふるまっていたピッツァとドルチェをブラッシュアップし、メニューとして形にした。エスプレッソも、マシンを個人輸入して楽しんでいた趣味が生きている。
新しい薪窯も店主の手によるもの。初代よりもパワーアップし、店には待望のピッツァ小屋を設置。さらに、イタリアでよく目にして憧れていたグリーンの窓枠や扉を取り入れた。家具も器も内装も、すべて“好き”だけを集めた空間。好きなものを作り、ふるまい、届けたい――その思いが形になり、この店が生まれた。

細い路地を進み、個人宅の門をくぐった先に現れる、隠れ家のような店。ベビーカーや車椅子も入れるゆとりあるレイアウトで、子連れも歓迎。徒歩や自転車でふらりと立ち寄るご近所さんから、遠方から訪れる一見さんまで、店主夫妻が柔らかく迎え入れる。どこか懐かしく、どこか異国を旅しているような不思議な心持ちで、ゆったりと非日常にひたるひとときが過ごせる。

