祗園の名店で味わうウクライナの名物料理「キエフスキーカツレツ」

四条川端の北東。縄手通と川端通をプロムナードで結ぶ鴨東ビルの6階に、旧ソ連料理の店が誕生して50年以上。当地が激動の歴史の中にあっても、この店は変わらず京都に在り続け、そして愛されてきた。
初代シェフはウクライナ系だったそう。そのレシピを継承しながら、京都に根ざした独自の味わいを作り上げてきた。中でも「キエフスキーカツレツ(キエフ風鶏のカツレツ)」は、ウクライナの首都キーウ(キエフ)の名を冠する名物料理で、創業当初から変わらぬ看板料理のひとつ。
ザクザクの衣を割れば、バターがじゅわっと溢れ出る



有塩バターを鶏ミンチで包み、それを薄く伸ばした鶏胸肉で巻く。小麦粉、卵、パン粉の衣は溶け出すバターを逃さないよう、2度重ねる。この手間が、料理全体の味わいを決める。

見るだけで衣のカリカリ感がわかる美しいチキンカツレツ。ナイフで真ん中からザクッと切れば、閉じ込められていたバターがじゅわっと溢れ出る。バターの絡んだ鶏胸肉はジューシーで、添えられるレモンをキュッと絞れば、ソースはいらない。十分に風味よく、味わい深い。香ばしくザクザクの衣の食感が小気味よく、夢中で食べ進めてしまう。
付け合わせはマッシュポテトがこの料理の定番。溶け出たバターをマッシュポテトに絡めれば、鶏のエキスが染みた濃厚な旨みを余すことなく味わえる。食べ終えてもなお、口の中にバターの余韻が残る。しみじみと満足感に包まれる、そんな一皿。
ウクライナ伝統のボルシチも見逃せない

「ボルシチ」もこの店で見逃せない一品。ビーツの深い赤が目を引くウクライナ伝統のスープは、大ぶりの具材をごろりと入れた、家庭の食卓を思わせるスタイル。牛肉と、じゃがいも、キャベツ、にんじん、玉ねぎなどの野菜が柔らかく煮込まれたスープは滋味豊か。サワークリームのコクのある酸味で、旨みがいっそう際立つ。ディルの鼻腔をすっと抜ける爽やかな香りも心地よい。鮮やかな赤色を出すため、ビーツは煮込まずに仕上げに入れているそう。
コースに組み込まれるほか、アラカルトでも注文できる。ボウルとカップの2サイズがあり、ボウルで注文すれば「パンプーシュカ」をセットにした、ウクライナの正統派スタイルで楽しめる。「パンプーシュカ」は、白くつややかな、ふっくらとしたパン。別添えのガーリックソースをつけてからスープに浸せば、ニンニクのパンチがプラスされ、スープ単体とはまた違ったおいしさを味わえる。
ロシア・ウクライナの空気に満ちた店内

メインフロアは落ち着いた空気が漂い、時間がゆるやかに流れる。学生や家族連れ、長年通うシニアまで、客層は実に幅広い。1人でふらりと来ても、気兼ねなく過ごせるのがうれしい。長く愛されてきた店の、懐の深さがそこにある。



店のいたるところに、有名無名問わず、さまざまな画家による絵が掲げられている。多くはロシアやウクライナの風景や当地にまつわる題材が描かれたもの。メインフロアに飾られたたくさんのマトリョーシカやスタッフが着る民族衣装も相まって、一歩踏み入れればそこは現地の空気に満ちている。
「料理、文化に国境はない」の信念を受け継いで50数年

京都に生まれた創業者・加藤幸四郎さんは、満州・ハルピンに渡り、当地でロシア文化に親しんだ。引き揚げ後、東京に「ロシア料理店スンガリー」を開業する。1972年の京都での出店にあたっては、その前年に京都市とキエフ市が姉妹都市となったことにちなんで、店名を「キエフ」に決めたそう。
「料理、文化に国境はない」。幸四郎さんが遺した言葉は、今も店に息づいている。どのような時代にあっても、目の前の一皿と向き合うことが、彼の地への敬意になる。その想いを感じながら、温もりに満ちた料理の数々を、心ゆくまで味わってほしい。
