試行錯誤を重ねて第5世代。野菜と牛すじの旨みが溶け込んだ喫茶店のカレー|LOVE THE CURRY VOL.96

自家製スジカレー(並盛)850円、焼チーズ(+200円)ソーセージ(+200円)トッピング

大宮通今出川上ルに2010年にオープンした喫茶店。つやつやと光る革の表紙に店名が刺繍されたメニューブックには、コーヒーをはじめとしたドリンクや各種軽食、スイーツが並ぶ。

「自家製スジカレー」は、にんじんやセロリ、玉ねぎなどの野菜と、牛すじ肉の旨みが溶け込んだまろやかな味わい。牛すじ肉は、ボイルして炒めたものを加えて鍋ごと昼夜煮込み続けるため、ほんのり繊維の気配が残るのみ。むしろ、大量に使う野菜の滋味が主役になる上品なカレー。

ガラムマサラをベースに、クミンやチャツネ、ワイン、コーヒー、ウスターソース、そして島根でポピュラーな甘みのある醤油など様々な調味料が使われている一方で、最終的に大切になるのは「引き算」なのだそう。多彩で複雑な味わいと、研ぎ澄まされた味覚の絶妙なバランスが生み出すのは、なぜか“和み”のリバーブ。

「味が馴染んだ頃の家のカレーと洋食屋さんのカレーのちょうど間を目指しました」と話す店主の菅原さん。ソーセージとバーナーで炙った焼チーズをトッピングすれば、満腹度120パーセント。引き算を大切にした味わいは、とろけるチーズの香ばしい風味とも過不足なくマッチする。多めにのった福神漬のぽりぽりとした食感が、良い箸休めに。

実はこのカレーは第5世代。継ぎ足し継ぎ足し水面下で試行錯誤を重ね、今の味に至る。

 

サイフォンで点てる自家焙煎コーヒーは、冷めてからもおいしい

ブレンドコーヒー600円(ドリンクセットは100円引き)

昔ながらのサイフォンで点てるコーヒーは、レギュラーブレンド、浅煎り、深煎りの3種をはじめ10種類ほど。すべて店主夫妻の自家焙煎によるもので、レギュラーブレンドはキレとコクが両立する毎日でも飲み飽きない一杯。すっきりとした苦みと後味が、冷めてからも続く。ブレンドを決める際はミルクを入れても変わらないおいしさを目指したのだそう。ブラック派も、ミルクと砂糖派も、ゆっくりと1時間くらいかけてゆっくり味わいたい。

 

「DIY」の域を超える、店主自らリノベーションした店内

店内は喫煙可。琥珀色の天井に、愛煙家が通う痕跡が

築100年ほどの町家を、菅原さん自らリノベーション。板張りの壁にタイル張りの丸柱、竹の仕切り、南国風のカウンター椅子など、ほかのどこにもない居心地の良さをかたちづくる。

カウンターの向こう側、ニッチの棚に並ぶグラスやカップ。下部のタイルの配列も美しい
「うなぎの寝床」の奥には、4人掛けのテーブル席と、美しく整えられた坪庭も

 

オーディオセットも、“逃現郷”の隠れた主役

店の奥には、今では珍しい真空管のアンプが置かれている

店内にやさしく響くBGMも、“逃現郷”に欠かせない醍醐味。ジャズやロックなど、菅原さんがセレクトした音源がプレーヤーとアンプを経て、スピーカーから流れる。特にアンプは「Marantz」のプリアンプと「Falcon」の真空管パワーアンプの“セパレートアンプ”になっている。

店内に張り巡らされた板の壁も、実は音響効果を考えて設計されたもの。3種類の厚さの板を、凹凸をつけて波状になるよう張り分けることでコンサートホールのような音の響きを狙ったのだそう。

「カレーもコーヒーも、オーディオも、自分のなかでは通底したものがある気がします」と話す菅原さん。試行錯誤するうちに、複雑な要素が絡み合って想像を超える“魔法”が生まれる瞬間。そんな一瞬一瞬が重なり混ざり合って、“逃現郷”に流れるゆたかな時間を織りなしている。

 

戦前のモダンな趣をのこす外観

デザインされた格子や回転窓など、細部に戦前の建物らしい洗練が感じられる

同志社や立命館、大谷大学、佛教大学から東は京都大学や京都芸術大学まで、客の3、4割は学生なのだそう。自転車は大宮通を挟んで反対側、北斜め向いに駐輪可能。スペースがあればバイクも停められて、自転車移動が多い「京都の大学生」にはありがたい存在。