「なんでもあるよ、みんなおいで」おしゃべりも楽しい、みんなの拠り所


「人の居場所を作りたい」。「キッサヒナタ」の店主・眞舘里子さんはコの字カウンターの中でそう言った。それは20代で姉と始めた居酒屋がきっかけだった。自身の妊娠・結婚を機に居酒屋を畳んだあとも思いは募る。そんな折、初めて訪れたバーで運命が動く。突然、「内装がかっこいいので、ここで喫茶店をさせて下さい!」とお願いしたのだ。「酔った勢いもあったかな」と笑う眞舘さん。その行動力と決断力はその後も運命を切り開いていくことになる。

そうしてバーの昼間に始めた喫茶店は、約3年続くが、やがてここにもコロナ禍の波が襲ってきた。昨年7月、年内での喫茶営業の撤退を打診される。しかし、「ずるずる引きずっても仕方がない」と、すぐに引き払ったというのが眞舘さんらしい。その後のことは考えていなかったが、「3日間ぐらい悩んだんですけど」再出発を決意。以前この場所にあったカフェ「セイカツノガラ」の店主の紹介であっという間に物件が決定。かくして昨年9月、「キッサヒナタ」は誕生する。

眞舘さんは鹿児島出身。高校卒業後アメリカに留学し、その後は東京へ。しかし東京で目標を失いフリーターをしていたところ姉から誘われ京都にやって来た。「若い頃は自分の居場所がないと思っていた。ずっと一人だったし、友達もいなかった。人と関わることをずっと避けてきた」。でも、今は違う。「会いに来てほしいし、ほっとしに来てほしい。喋りに来てほしい。そういう店にしたい」。

「キッサヒナタ」には眞舘さんと彼女を囲む人々の笑顔があふれている。メニューはしっかりご飯からスイーツ、コーヒー、ワインまで揃う。「材料さえあれば、何でもやりますよ」。コの字カウンターだけの店内はさながら「茶の間」で、中に立つ眞舘さんは「お母さん」のように、訪れる人を温かく迎え入れる。かつての自分のように、居場所を探す人たちに「なんでもあるよ。みんなおいで」と優しく、微笑みながら。

卵2個のふっくら厚めが特徴のオムライス


華麗なフライパンさばきで仕上げる「オムライス(700円)」は、たっぷりバターとケチャップの風味にごろごろ入った鶏肉が幸せのおいしさ!卵2個のふっくら厚めが特徴。

一部残した「セイカツノガラ」時代の内装。縁を大切に、人との繋がりを広げている今の眞舘さんとこの店によく合っている。

アグレッシブな眞舘さんの野望はまだまだ道半ば。「全国を回って“出張喫茶”をやってみたい」というのが直近の目標とか。「ヒナタ」はお姉さんと営んでいた居酒屋の屋号。「私の妊娠で店を畳むことになったのが気になっていて…。姉に相談してこの店名に決めました」。すぐ近くに住むお姉さんと、いつかまた、二人で店に立つ日がやってくるかもしれない。